暁命堂雑記

ときどき書きます。

論文を書きました。「観念と力動——牟宗三の「唯心論」再考」

『中国哲学研究』という雑誌の第33号に、「観念と力動——牟宗三の「唯心論」再考」という論文を寄稿しました。 牟宗三という中国の哲学者について論じたものです。かれは20世紀の中頃以降に、おもにカント哲学との比較のなかで中国哲学を再構築した、なかなか…

Adobe Acrobat Reader が Preview より明らかに優れている点について

翻訳仕事(英→日)の際に pdf ファイルを表示するソフトウェアを、Mac にデフォルトで入っている Preview から(無料の)Adobe Acrobat Reader に変えてみた。数ヶ月ほど使用した結果、明確に後者のほうがよいと思われたので、その理由を簡単にまとめておく…

ここ半年ほどの仕事と今後の予定

昨年8月末に『中国における技術への問い』の邦訳を出してから、結構いろいろと仕事をしました。自分のためにも以下にまとめておきます。研究会などでの発表や報告はのぞく。モレはあるかもしれない。 (1)原稿、翻訳仕事「ユク・ホイと地域性の問題——ホー…

『中国における技術への問い』邦訳を出します

このたび、香港の哲学者ユク・ホイ(許煜)の著書である The Question Concerning Technology in China: An Essay in Cosmotechnics (Falmouth: Urbanomic, 2016.) の邦訳を刊行することになった。 中国における技術への問い 作者:ユク・ホイ 株式会社ゲンロ…

「野球」という訳語について

甲子園の中継を漫然と流していた昼下がり、ふと baseball を「野球」とするのはあまりよい翻訳ではないんじゃないかと思った。というのも、屋外でフィールド=「野」を必要とするすべての球技は原理的に「野球」になるはずだから。 他方原語の baseball は、…

およそありうべき最善でただひとつの結末——『月球植民地小説』について

もう5年以上まえ、まだ大学生だったころに書いた文章がみつかった。卒論の構想すら立っていなかったころだ。いま見返すと、あまりスマートではないし、よくないかたちで「批評」の影響を受けている——率直にいうと毒されている——感じが否めない(もちろん「…

死なない身体の生かしかた——劉慈欣と技術的永生の問題

香港の哲学者ユク・ホイは、2020年の世界的な感染症の危機に際して、医学的ないし技術的な手段によって死を克服しようとする精神は「ハムレットの文化」を継承するものではないかと述べている。 というのも、ヴァレリーの論考〔1919年の「精神の危機」〕から…

2020年の仕事とか

今月のはじめに修論を提出した。 とにかく時間がなくてたいへんだったけど、なんとかなった、と思う。 はっきりいうと、11月ごろまで論文と並行して仕事してたのはいろいろミスった感があった……。 なにはともあれ、いちおう出すには出した。そして今週中に口…

井筒俊彦と牟宗三を比較する 第1回 導入(1)

これからしばらくのあいだ、このブログ上で何度かにわけて、日本の井筒俊彦(1914-1993)と中国の牟宗三(1909-1995)という20世紀のふたりの哲学者にかんするはなしをしていきたいと思う。 井筒俊彦の名前を聞いたことがあるひとは少なくないだろう。『コー…

【发言稿】井筒俊彦与牟宗三_导言

之前在研究室里做了简单的发言,题目是“井筒俊彦与牟宗三”。由于发言时间的关系,我只能介绍基础性的信息以及自己想探讨的关键问题。下面所发表的是此时所用的发言稿。 ■ 作为硕士论文的主题,我打算对中国的牟宗三和日本的井筒俊彦这两位20世纪的哲学家进行…

ひとの目を気にしないで生きるために

※もしあなたがこの題にまつわるなんらかの教訓や有効な手段を求めるならば、ただちにこのページを消し去らねばならない。いますぐにだ。そして可能であるならば、いつもブラウザの閲覧履歴を消すような仕方で、この雑文にたどり着く数分前からの記憶を抹消す…

【試論】再考“文”與“風土性”

去年我花了大量的时间对中国传统的“文”的概念的现代性转化的可能性进行考察,结果我发现自己在追求的问题实在太大了,用几年的时光根本不会得到一定的“成果”。于是我暂时放弃了这个研究,最后去年12月在一个与台湾大学的工作坊里关于这个话题做了一次发言(…

真夏の猫

※「〳〵」はくりかえし記号 昧爽既に山ぎはは真白、人の起きたるを待たで鳴きたる蟬の喧囂、高潔聡明の云はれも最早今は昔ぞかし。唐土が騒人處士の、かれを以て賢に見立てたるは、まこと暑さにお頭の厶りしゆゑならむと扇しならせ一人合點。絶へず枕の浮き…

留学体験記が載らなかった

秋になって留学体験記を書いた。所属している大学の中文科の先生から書けといわれたものだ(留学事務所からいわれてたものは書くのをすっかり忘れていた。催促もなにも来なかったので、それほど重要じゃなかったらしい)。先生からは好きに書いてくれといわ…

留学と責任、あるいは留学経験を語ることについて

留学を終えてもう一か月になる。帰国前はわりとゆったりしていたけど、いざ帰ってみると引っ越したり家具や日用品を集めたり区役所や大学事務所へいったりバイトを再開したりというのがいっぺんにやって来て、思っていたより慌ただしい。もちろん勉強もする…

読書メーターとめまい

先日知り合いに「読書メーター」をすすめられた。読書メーターはウェブ上のサービスで、おもに読んだ本を自分のアカウントに登録することで、読書の記録をとったり読書の傾向が似ているほかのユーザーと交流したりできるものだ。一種のSNSだといってもいい。…

積読という病

本棚に本を並べきれなくなると、とりあえず横向きに(表紙を下にして)積んでいく。そうすることで、まだ読んでない本が縦に横にたまっていく。 この状態、動作、あるいはそうしてたまった本を積読(つんどく)という。 積読は、基本的に手持ちの本を読み切…

観光的に学ぶこと

先日、山西省に住んでいる友人の家へ1週間弱おじゃましてきた。客をもてなすこと自体たいへんなことなのに、くわえて、ぼくが初日から食あたりか何かによって2日ほどしたたかにお腹を壊してしまい、たいへん迷惑をかけてしまった。とはいえ、その間なにや…

枯れきった深緑の草ぐさを、ぼくらはどうみればよいのだろうか?

日本でもニュースになったであろう中国の春節(=旧正月)もすでに終わりを迎えようとしている。一般的に、春節の祝賀ムードは陰暦の正月十五日(上元、新年最初の満月)の夜、いわゆる元宵をもって終わる。(※1)この日は元宵節とよばれ、お祭りが各地で開…

そこには、虚構しかない。――小説的、没現実的な空間2

天安門へいった。 天安門を知らないという方はおそらくいないと思うが、簡単に説明すると、天安門とは北京市の中心部に位置する城門で、かつては故宮(いわゆる紫禁城)の正門だった。ここの楼上で毛沢東が中華人民共和国の建国宣言を行ったり、中国の国章に…

交換留学の本質

日本では(新暦では)もう年の瀬だが、中国で年越しといえばもっぱら春節(旧暦の正月)を指すので、あと2日で2017年を迎えるというのに、年越しの雰囲気が一切感じられない。おまけに春節ひと月前のこの時期は、ちょうど試験の時期に当たっているのでたいへ…

小説的、没現実的な空間

盧溝橋にいった。 いうまでもなく、ここは1937年7月7日に日中戦争(こっちでは抗日戦争という)の契機となった盧溝橋事件(こっちでは七・七事変という。日付を明記したのはそれゆえでもある)が起こった場所で、北京の西南の郊外にある。北西のやや外れに位…

たぶん、トランプもつらい

トランプが大統領になった。いま世界のあちこちでグローバリズムの反動のような現象がおこっているので、ひょっとすれば勝つかもなあとは思っていたけれど、なんだかんだクリントンが勝つだろうと思っていたので、それなりにびっくりした。また、奇しくも選…

「役に立つの?」といわれたら

初対面の人に文学を、特に中国の古典文学をやっているといったら、よく「それって役に立つの?」と聞かれる。そうでなくても「なぜ/なんのためにやってるの?」とか。もちろん人文系をやっている人と話してるとそんなことは全くないし、とてもスムーズに話…

『乾文學』八月特別號公開!

※八月特別號PDF版のダウンロードはこちらからどうぞ いま僕が生活している和敬塾という寮で『乾文學』という文芸誌を時々作っているのですが、このたび最新號の八月特別號を公開しました。 今回は「和敬塾の再定義」という特集を組んで、いま和敬塾という共…

夜食論

夜に食らうと書いて夜食と言うが、単に夜に食べれば好いというわけではない。それは常に夕食の後に行われることにおいて夜食たりうる。つまり、夜食とは節度ある三食の後に押し寄せる過剰なる一撃のことである。夜食が過剰である理由は至って単純で、それは…

余は石だらけの土手のやうな處を歩いてゐた。夜である。ぢやり〳〵と歩きながら、余は何やら考へ事をしてゐた。凡そ世のくさ〴〵の美は、形式美と内容美とに別れると云ふ者があるが、そんな事はない。よしんば別れた處で、それが、騎士の持つ剣と楯とのやう…

詩人

先日ある授業を受けていた折に、先生が突然李白になった。少し虚ろな目になりながら彼方此方を歩き回っては頻りに長吟している。柳の様な二束の口髯をしくしくと情けなく垂らし、それぞれが歌に合わせて根元からわさわさと揺れ動いていた。三盃通大道、一斗…

電氣

寮の六畳の自室に歸つて外套を脱ぐと、奥の窗際にある寐床の上に見知らぬ女が獨り寐てゐた。茶地に黑い猫と其の足跡が無數に描かれた掛布團をすつぽりと被りながらじつとこちらを見てゐた。邊りがまう随分と暗くなつてゐるために薄盆槍としてゐるが、然し相…

鹿

紂王が球琳金華に偃蹇たる煙火の裡に塵埃となった爲に、人間は忽ち周の世になつた。雪谿の既に溶けて了つた春先の事である。革命の知らせを受けた兄弟はいそぎも懇ろにせず、須臾のうちに軀に七穴を開けむばかりの勢いで胸裡に膨れ上がらむとする正義を抱へ…